伝燈院 赤坂浄苑 副住職 角田賢隆
お彼岸の話
9月に開催されました秋の彼岸会合同法要にはたくさんのご参加をいただき、滞りなく終えることができました。日頃より皆様方のご協力に感謝申し上げます。
暑さ寒さも彼岸までと申しますように、毎年この法要を終えると日増しに肌寒くなるように感じております。
お彼岸とは読んで字のごとく「彼」の「岸」で川の向こう岸のことでございますが、この「お彼岸」について少しご説明させていただきます。
仏教では「西方浄土」という考え方があり、西のずっとずっと先に仏様が心安らかにすごす世界があり、故人はその世界で安らかに何の不安もなく過ごしていると考えられております。
仏教伝来以前より日本人は昇る朝日に生命を感じ、沈みゆく夕日に死をイメージしておりました。春分の日と秋分の日は太陽が真東から昇り真西に沈みます。そこに「西方浄土」の考え方が合わさりいつもより故人を偲び手厚くご供養するようになったのがお彼岸の始まりでございます。
また「彼岸」は心安らかな不安のない世界でございますので「悟り」の世界とされており、全国の寺院では先祖供養の法要を行うとともに、悟りに繋がる6つの行いとして「六波羅蜜」(ろくはらみつ)という得業を説きます。
「波羅蜜」はサンスクリット語の「パーラミター」が語源で漢字では「到彼岸」(彼岸に到る)と表し、まさしく「悟り」となるわけでございますが、その得業についてご説明いたします。
◎―つ目は「布施」(ふせ)
「布施」と聞くとお寺に対する「お経料」というのが一般的かと思いますが、本来の意味合いは他者に対する施しでございます。人にやさしく接するのも大事な布施でございます。
◎二つ目は「持戒」(じかい)
お坊さんであれば僧侶としての戒律を守ることでございますが、在家の皆様にとっては法律を守り、人の迷惑にならないように心がけることです。
◎三つ目は「忍辱」(にんにく)
これは耐え忍ぶということでございます。ですがただ単に我慢するというものではなく、大変難しいことですけど理不尽な対応にも常に平常心で接することが重要です。
◎四つ目は「精進」(しょうじん)
目標に向かい雑念を取り去り、ポジテイブなメンタルでただひたすら努力することでございます。
◎五つ目は「禅定」(ぜんじょう)
禅定は坐禅のことですが日常でも呼吸を整え精神を安定させ坐禅中のような心持ちですごすことです。
◎六つ目は「智慧」(ちえ)
五つ目までの行いを実践することにより得られる力で物事を正しくとらえることです。
「悟り」とは自身と縁遠く難しいため別世界のことと捉えがちですが、以上の行いを少しずつ積み重ねていくうちにある日突然心安らかで死への不安が全くなく、何事にも心乱されない自分がいることに気付くのも「悟り」でございます。
無宗教の方が大変多い現代でございますが、宗教が無くならず脈々と続いているのは、法律だけでは対応できない、人としての正しい生き方を示している部分が重要であるからだと考えます。
すべてを一貰して守るように強要はいたしませんが、いいと思うものが一っでもございましたら参考にしていただき、心豊かな人生を歩んでいただければ幸いです。