伝燈院 赤坂浄苑 副住職 角田賢隆
日本のお盆
赤坂浄苑では「お盆」の合同法要を七月に勤修いたしておりますが、全国的に見ますと企業が特別に休業を定め、帰省ラッシュが起こる八月の「お盆」のほうが一般的です。
「お盆」とは諸説ありますが、もともと「神道」にあった一年を半分に分け(もしくは今の一年を二年ととらえる)、その節目に「大祓」という浄化儀式を行い、その後先祖の御霊をお迎えする御霊祭を行っておりました。そのそれぞれを「お盆」・「正月」としたのが始まりとされております。ですから節目に「感謝」を伝えるため、年末の次の月である一月が「正月」・上半期の次の月である七月が「お盆」となるわけです。成り立ちで言えばお盆は七月なのですが、当時は月の満ち欠けを基準とする「太陽太陰暦」(一年を約三五四日とし閏月で調整)が使用されておりましたので、現在の「太陽暦」とはずれが生じます。令和四年で言えば、正月の旧暦一月一日は現在の二月一日。お盆の中日である旧暦七月十五日は現在の八月十二日になります。
日本ではお正月を旧暦で迎える文化はありませんので、お盆も新暦の半年で区切った次の月である七月に行うほうがよろしいかと思うのですが、そうならなかったところには稲作文化が大きく影響しているものと推測されます。
八月(旧暦の七月)は稲穂が実り始める時期であり、先祖に対する「感謝」を表す行事としては、実りの有る無しは大変重要だったと思いますし、夏のひと月は植物の成長がより顕著です。作物を相手に暮らしてきた民族にとって、実りの多い「お盆」だけは肌で感じる従来の感覚(季節感)との違いから、新暦を受け入れることが出来なかったのかもしれません。
「盆」の文字の成り立ちは器に盛りつけた供物を表したものです。守ってくださる神さま(ご先祖さま)に供えた供物から、供養する行為自体が「お盆」になったとされており、文字としては日本固有の意味を持ちます。その神道の「お盆」に仏教の「盂蘭盆」、新暦・旧暦と土着の風習が混ざり合い、現代の「お盆」となっておりますが、もともとは神道の流れからくる日本の「祖霊信仰」(先祖とのつながりを大切にする信仰)が大きく影響しております。
仏教でいう「盂蘭盆」とは、簡単に説明すると他者への施しがより大きくなり自分に戻ってくるという教えです。
「神道」は経典が無いため教えのない宗教だと感じがちですが、大前提としてすべてのものに神が宿り、その恵みにより私たちは生かされている。「感謝し、自身を慎み、今を大切に生きる」という考えが根底にある宗教です。
その具体的な生き方をわかりやすく示しているのが「仏教」であり、神道のそうした土台のうえにうまく融合したのが現在の「日本仏教」であると考えます。
仏教用語である「ありがとう」(有る事難し)。ありえないことが起こったと感謝を表す言葉にあるように、日本人の本質は「感謝」でございます。神も仏もお参りの基本は「感謝」でございます。大変な世の中でございますが他者への「感謝」は必ず自分に戻ってまいります。そしてそれが生きる活力となります。感謝の心を大切に精いっぱい生きていただけますと大変ありがたく存じます。
伝燈院 赤坂浄苑 角田賢隆 拝