伝燈院 赤坂浄苑 副住職 角田賢隆
改歳の辰を迎え、謹んで新春のお喜びを申し上げます。
明けましておめでとうございます。当苑ご関係の皆さま方におかれましてはいかがおすごしでしょうか。
私たちは新年を迎えると当たり前のように初詣に行き、一年の繁栄や安寧を祈念いたします。また「鏡餅」や「門松」「しめ縄」などの縁起物を自宅にお飾りし、厄年にはお祓いやご祈祷を受け、「おみくじ」に一喜一憂する等々、ことさら吉凶には関心の高い国民性でございます。
神事や仏事・占いの「吉凶」は自身を律し、生き方の参考にする分には大変有意義なものとなりますが、その反面古くからの習慣として信じ込んでしまっている悪習もございます。その最たるものがカレンダーに当たり前のように記載される「六曜」です。「先勝」「友引」「先負」「仏滅」「大安」「赤口」とあり、「友引」は友を引くので葬儀を行わない、「仏滅」は忌日で「大安」は吉日というのが定説となっております。この「六曜」の出典は不明ですが中国を起源として、元は一日の時間を六つに分け吉凶を表したものだったそうです。日本には鎌倉時代に伝来し、江戸時代に流行したとされます。中国では早々に廃れており、現在は日本で独自に改変されものが日本でのみ使用されております。「仏滅」とあるのでいかにも仏教由来と思われがちですが全く関係はありません。お釈迦さまは「如来の法のなかに吉日良辰をえらぶことなし」と説かれているように、日の吉凶自体を完全に否定しておりますし、曹洞宗では宗門として「六曜」は迷信であると発表しています。日本政府も明治改暦の際に混乱を避けるため「吉凶付きの暦注は迷信である」とカレンダーへの表記を禁止しております。「六曜」は旧暦が基準であり、旧暦の一月一日・七月一日が「先勝」、二月一日・八月一日が「友引」というように月ごとの始まりが定められ、毎月一日以降順番に繰り返されるという単純なものです。現在の太陽暦とは関連性がないためことさら神秘性が増し、信じる人が多くなったとも言われております。
では、なぜこれほどまでに「六曜」が広まったのかでございますが、日本では「大安・一粒万倍日・天赦日・寅の日・巳の日」など、この他にも昔から様々な吉凶を表す考え方や迷信がありました。ですからたとえ「大安」であったとしても、別の考え方によっては忌日になるなど、大人数で何か始めるのにあたり揉めることが多かったのではないでしょうか。そこでスケジュール調整を安易にするため、たまたまより単純でわかりやすい「六曜」が広まっていったのではないかと考えます。(諸説ありますが)
ある調査によると離婚率が最も高いのが「大安」に結婚された方で、逆に一番低いのは「仏滅」に結婚された方だそうでございます。この理由は簡単で「大安」を選んで結婚される方の絶対数が多いため、おのずと離婚数も多くなるためです。その逆に別の調査では「一等宝くじ」の当選者は「仏滅」に購入した方が一番多いそうです。絶対数が少ないであろう「仏滅」の購入者に当選が多い理由は不明ですが、なんとも皮肉なものです。さらに「仏滅」は元の「虚亡」から「空亡」「物滅」「仏滅」というようにその時代によって都合の良い解釈に変更されています。このように「六曜」は正当性がなく、あまり意味が無いということがお分かりいただけたのではないでしょうか。
「自業自得」「因果応報」という仏教用語にあるように、仏教では自身の吉凶は日にちではなく、自身の行いが全てでございます。悪い行いがたまれば凶として現れ、良い行いがたまれば吉として出てまいります。今年が厄年である。あるいは占いで悪い年と言われたのであれば、凶が現れやすい年となっておりますので、その凶を相殺するために、いつも以上に人にやさしく接し、世のため人のための善行を行い、出来るだけ「凶」に備えていただく。神事や仏事・吉凶の占い事はそのように利用いただければありがたく存じます。
伝燈院 赤坂浄苑 角田賢隆 拝